Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「世界共和国へ」柄谷行人 岩波新書

マルクス研究の第一人者が、世界のこれからのあり様というものを学究的に模索した意欲作です。マルクスの理論を超えて、最新の学者の知見が多く援用され、読解の難しい書物に仕上がっていますが、著者のいうところに曖昧なところはなく、一読して、その理念の思想的な価値が感得できます。理念とは、題名として掲げられた「世界共和国」に他なりません。著者はこの理念を構築するために、マルクスに飽き足らず、カントまで遡ります。しかし、これを構築するには、依然として道半ばであることを告白します。恒久平和への願いが込められた本です。(が、撰者には、こうした試みは少々危なっかしいもののように思えてなりません。理念とは、自他を傷つけずにはいない、両刃の剣に他ならないものと考えているからです。)