Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 仁と慈悲、そして「愛」 <縦と横の愛情表現>

仁は、儒教で強調される徳目であり、慈悲は仏教で重んじられる徳で、両者とも、上から下に、言わば、縦に下る、自然な愛情表現と言って良かろうと思う。


仁は、為政者から人民に下される徳で、仁徳天皇の話柄は、そのことをよく伝えている。慈悲は、仏から人々に齎される徳で、やはり、上から下への、縦に下る愛情である。


この二つの徳は、水が高きから低きに流れるように、感情として自然な流れと言って良く、現実生活においては、まことに、人情に適った徳目である。


それで、ここに、西洋由来の「愛」がある。これは、対等関係か、もしくは、対象を拡大させた、言わば、反自然的に流れようとする、横断的な徳と言った方が、適切な愛情表現で、現実生活では、容易に、出現しないようなものではないか、と少なくとも、わたしはそうかんがえる者である。


こうしたことを、言うのは、その「愛」の伝道者であるジーザスの、とんでもない生涯やことば、また、「敬天愛人」を標榜した、西郷隆盛の驚くべき言葉や、人生を思うと、わたしは、そうした生き方を、人間として十全に敬しはしても、その生き方に倣う、というような気には、まるで、ならないからである。


その精神の有り様は、わたしのような普通人や凡人に過ぎない人間の在り方とは、まったく、質を異にしたもので、単純に言えば、付いて行けないのである。


わたしは、凡庸な日本人として、歳を重ねて来て、いよいよ、自分が、そういう者ではないことを、実感するようになってきた、ということである。