Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 技術というもの <玉鋼>

文明が持つ技術というものは、失われやすいものである。


古代エジプトは、石を組み上げることに関しては、石と石との間に、カミソリの刃も通らないほどの、高度な技術を持っていたのは周知の事実だが、現代のエジプト人に聞いても、どんな技術で、あのピラミッドを作ったのか、知る人は一人もいない。


アンコールワットの遺跡で知られるカンボジアも同断で、石に関する技術については、むしろ、日本人の石工の方が、優れた技術を持っていて、遺跡を修復する必要に迫られたとき、名のある石工が、現地に出かけて行って、現地の人を指導したほどである。


日本刀で有名な、玉鋼を作る技術も、そういったことから考えて、失われてしまう技術だったのかも知れないのである。


この玉鋼を作るたたら製鉄という技術は、それほど、むずかしいものなので、これが平安期から脈々と受け継がれていき、江戸後期になってようやく、しっかりとした工程を踏む技術として完成されたという歴史は、世界的に見れば、驚くべきことなのである。


鉄箸で作られた風鈴というものがあり、良い音を奏でるのであるが、NHKを見ていたとき、玉鋼で作られた鉄箸の風鈴の音を聞かせくれた番組があって、テレビではあるが、それを聞いたとき、その玄妙極まりない音というか、響きには、驚嘆したものであった。


スティービー・ワンダーという人は、その音を聞いたことがあるそうで、「すぐ近くで鳴っているのに、宇宙の果てから聞こえてくるような音だ。」と、序でに紹介されていて、宇宙を持ち出すところなどは、いかにもポップ系だが、なるほどうまいことを言うものだと、その表現にも感心したものだった。


戦後、GHQの政策によって、日本刀を作れなくなった一時期があり、また、日本刀自体の需要が減ったりと、様々な理由によって、この技術が危機に瀕しているとの報道があった。


今夜、NHKで、この玉鋼について組まれた特集番組が放送される。興味のある方は、ぜひ、ご覧頂きたいと思う。


※わたしはNHkのまわし者ではありません。念のため。