Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 城郭考 <こころの拠り所>

日本に城は多いが、これは、単なる戦国時代の遺物ではない。ハッキリと近世になってからの日本人にとっての心の拠り所である。


明治時代となり、城の政治的な役割は終わり、人々に新知識、新思想が入って来てからも,
城は人々の心の拠り所であることを、止めなかった。


現在、熊本城や名古屋城の再建費用として、何百億のも資金が公金で支出されているというのに、誰も文句を言う者はいない。むしろ、姫路城が世界遺産と指定され、城の価値は、いよいよ高まっているとさえ言える。


では、城以前の日本人の心の拠り所は、何だったかと言えば、これは言うまでもなく、神社仏閣であったろう。


これらは、けれども、宗教という衣を被っていて、われわれの日常感覚としての心の拠り所とは、異なる。


この点、叡山を焼き討ちし、後の仏教界から蛇蝎のように嫌われることになる、信長が、嚆矢となって、安土城という華麗な天守閣を持った城を築城し、人々の心の拠り所となる建築物、それも、宗教に頼らない永久的建築物となるものを、先駆けて作ったのは、やはり、信長という人間の偉さを、かんがえずにはいられないものがある。


要するに、信長は、日本人の仏教的な心の拠り所を、破壊すると同時に、しっかりと、その代替となるものを作っていったということである。他の国では、宗教に拠らない、永久的建築物など、考えられもしないのではなかろうか。


仏教界は、多くの宗教的偉人を輩出した、天下の名刹、比叡山を焼き討ちした信長を憎んで止まないであろうが、人々は、知らぬ間に信長という男を讃仰している。


思えば、不思議な現象と言えるのかも知れない。