Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ モーツァルト K525 <アイネ・クライネ・ナハトムジーク>

おそらく、モーツァルトの中で、モーツァルの音楽をよく知らない人を含めて、もっとも知られている曲は、この曲であろう。わたし自身、クラシック音楽にのめり込む、最初の頃は、この曲に熱中したものである。


けれども、この曲は、クラシック音楽に詳しい人なら、誰でも知っていることなのだが、モーツァルトの作曲した曲の中では、唯一の駄作、愚作と言われている曲なのである。


ここが、音楽という芸術の、摩訶不思議なところのように思う。他の、例えば、絵画や文学では、見られないような現象が起こっている。


ここからは、わたしの見解なのだが、モーツァルトにとっては、いわゆる、一般聴衆が有り難がる音楽、受ける音楽というものは、どう書けば良いのか、分かり切った話であったろうと思う。そんなことは、わざわざ、通俗作曲家のサリエリに教えてもらうまでもない。


モーツァルトは、自分の作曲してきた音楽を、一度、記憶の中で総覧して見て、一般聴衆と自分の音楽とを、直に繋ぐ、言ってみれば、入り口となるような曲が、欲しかったのではないかと推測するのである。そうした曲は、わたしの音楽への入門用の曲として、一曲で足りる。実際、モーツァルトは、これ以上、一曲も駄作を書いていない。


それが、モーツァルトの音楽の中では、もっとも、よく人口に膾炙している「アイネ・クライネ・ナハトマジーク」になった。音楽という芸術の不思議さであると、同時に、モーツァルトという音楽の達人にあっては、お見通しのことだったと受け取れも、するのである。


K525を、わたしは、このように聴く者である。