Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 音楽は不思議な芸術 2<バッハとヘンデル>

西洋音楽史を眺めていると、まるで、音楽はバッハからはじまっているような錯覚を覚えるが、これは、その過去に前例がないくらい、非常な深さと大きな広がりを持った音楽を、バッハという一個人が書いたためで、上記の形容は、単なるわたしの主観的な感想というものではなく、そうした音楽であることを、歴史の過酷な荒波に揉まれて、バッハの作品自体が、証明してきたからに他ならない。


バッハほど、彼以前の過去の音楽に拘り続け、異常と思えるくらい精通した作曲家もいない。あるバッハ研究家に拠れば、バッハのどの作品を取り上げて見ても、その過去の音楽の履歴が、しっかりと正しく辿れる音楽もないそうである。


そうして、面白いことに、バッハの音楽は、同時代のヘンデルや他の音楽家の音楽より、断然に新しかったということである。


これは、現代の今の耳で聞いても、はっきりしていることと言って良く、バッハには、ヘンデルなどの音楽家には持てなかったような、プレロマンチズムという新しさを持っている。つまり、バッハの当時、彼の音楽を古いと言って弾劾した新進の音楽家は、バッハの音楽の意匠だけを見て、古いと決めつけたので、実は、とても新しい音楽だったから、理解するのに難しかったということに気が付かなかった、と言えるのである。


この略してプレロマンという性格こそ、バッハの音楽を決定付けるもので、ヘンデルの音楽が、ヘンデルという人格をその音楽の陰に隠してしまうか、または、音楽のうちに解消してしまうものであることと、するどく対比できるのである。


<続く>