Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

「トーマス・マン短編集」トーマス・マン 岩波文庫

題名が思い出せなくて、申し訳ありませんが、マンの短編集の巻頭にある、強い印象を残さずにはいない、短編小説です。公園のベンチで、偶然出会った老人から、人生の話を聞くという体裁で、その老人は、社会に出たときも、結婚をしたときも、子どもが生まれたときも、病気から治ったときでさえも「それで、どうしたというのだ」という自分の内なる動かない心を感じ、人生に不毛さしか感じ取りません。この老人は、自身が死ぬときでさえ、それで、どうしたというのだという自分を思い、それに、何の感情も湧かない自分を知っていると言って、去って行きます。およそ、文学精神とは、真反対の人間を描いた反文学と言って良い作品です。