Toshiのエッセイと詩とおすすめ本と絵などのブログ by車戸都志春

文芸を中心に、エッセイやおすすめ本の紹介文、人物画、写真、現代詩、俳句、短歌などを載せたブログ。by:車戸都志正

エッセイ 考えるということ 3

本を読むことは、自由に考えるときの必須の条件である。考えるだけなら、誰でも可能であるが、既成観念にとらわれず、自由にものを考えるには、ある特殊な修練を必要とする。


その修練には、だが、本を読むだけでは足りない。本を読みつつ、考える力を身につけなければならない。既成観念とは、じつに頑固にこびり付いた澱のようなものであるから、例えば、本を二、三百冊ほど読み、よく考えたとしても、なかなか落ちる汚れではない。このことを根底から分かっている人に出会うのは、至極稀なものでさえある。


現代は、「論語」のようなスタンダード・テキストが無くなってしまった時代である。こうした時代にあっては、本をバカにする人の数が多くなるのは、争えない状況であると言える。また、出版社も競って、一回読まれただけで良しとする本の製造に余念がないことを思えば、本に対する尊敬と、仮に今、わたしが言ったとしても、何を時代錯誤的な表現をと笑われるのが、落ちな位なほどである。


現在、考えるときの基点となるような言葉の例を、挙げてみよう。民主主義、平等、個性、自由、権利等々、現代なら皆、誰でも馴染みのある言葉である。だが、ここに一つの真実の事柄がある、今の時代、これらの言葉をよくよく理解して、喋ったり書いている人は、ほとんどいないのだと。


既成観念というのは、じつにおそろしい働きをするもので、上に列挙した言葉の呪縛から免れて、ものを考えている人は、現代、ほとんどいないことを悟るだけでも、その人は何ものかを得たのだと言えるくらいである。


「論語」が、新紙幣の発行のお陰で、また、脚光を浴びるようなことになりそうである。これは慶賀な傾向として喜びたい。